和食 味彩

「舌で人の思い出に残るものに…」


ご主人の奥さんである阿部裕美さん

■味に彩りをつける

お店の名前である「味彩」。特に由来がある訳ではないそうだが、創作料理が好きで、いろいろ試行錯誤してつくることが好きだったこと、味に彩りをつける、という意味から名付けたそうだ。私は、この「味彩」という名前にはいろんな思いが詰まっている、大切な場所のように思えた。
 ご主人のいとこが和食の板前だったことが影響し、ご主人は東京のプリンスホテルで厳しい修業をし、料理の世界で努力することで得られる喜びを感じていた。次第に、独立してお店を持ちたいという夢ができ、25歳の時に陸前高田市に戻ってきた。3年間、市内で料理人として勤め、28歳の時に独立してお店を構えたそうだ。
 お店の人気メニューは、だし巻き玉子ととりから南蛮ソース。震災前もこのとりからと玉子焼きが人気で、看板料理でもあった。震災後およそ7年ぶりにお店を再開すると、お客さんが懐かしい味だと喜んでくれ、とりからと玉子焼きをランチメニューに取り入れた。
  ちなみに、人気のだし巻き玉子は卵を3個使っているそうだ。

人気のとりから南蛮ソースとだし巻き玉子のセット膳


■あの日、あの時…

 1996年(平成8年)から陸前高田の大町というところでお店を始め、約15年間お店を開いていた。
 2011年3月11日に起きた東日本大震災。大きな地震と大規模な津波が陸前高田の町を襲った。
 当時、夜の宴会に向けた準備をしていた。地震があった時はありとあらゆるものが落ち、お店は壊滅的だった。地震の後は、お店よりも当時高校3年生の娘さんを心配し、自宅に向かった。後に、知り合いから陸前高田の町がなくなったことを知り、高台から町の様子を確認した。津波によってお店は流されたが、高いところにあった自宅は無事だった。

■震災後から約7年半の道のりと再開への思い

仮設店舗での営業はしなかった。娘の仕送りのために、居酒屋での求人を見つけ、ご主人は2011年4月から内陸の北上市に出稼ぎにいくことになった。その後、北上市で空き店舗を借りて、ご主人一人で味彩とは違う名前でお店を始め、4年間やっていた。そんな中で、仮設店舗での再開の話があったが、「安く仕入れて安く提供する」というモットーを貫けないのなら、今は始める時期ではないと考えたそうだ。
 そして、震災から6年9ヶ月後にお店を再開した。お店が津波で流され、お店をそのまま終わりにしていいのかという迷いがあったため、再開に至ったという。
 お店の再開に向けて誰よりも強い思いと自分の信念を持っているからこそ、お店の再開に時間がかかってしまったのだと思った。その思いに私は感動した。

■中心市街地でオープン、お客さんからの後押しとこれからの思い


和を感じられる店内
6年9ヶ月ぶりにお店を再開し、やっとここまで来たという気持ちだった。しかし、同時にゴールではなくスタートだから、頑張ろうという気持ちもあった。また、お客さんのからの待ってたよという声が何よりも嬉しく、中でも地元の方が懐かしいといって美味しそうに食べてくれたことが何よりのことだった。
 来てくれるお客さんがいる限りはお店を続け、おいしいと言ってくれるお客さんの声を大事にしていきたい。これから先を考えることは大事であるが、それでは不安が募るばかりだ。「まずは今を大切にし、舌でお客さんの思い出に残り続けるものになってほしい。お店をずっと守り続けていきたい。」と将来のお店とまちへの思いを聞かせてくれた。その目には、お店を続けていくという強い意志が見えた。

■この記事を見る方へ

被災していろいろあったが、様々な人の支えがあっての再開で、自分たちが元気にお店を続けることが支えてくれた人たちへの恩返しだと思っている。「時々でいいので、陸前高田がどうなったのか見に来てほしい。お客さんに味彩の料理を味わっていただきたい。」と語ってくれた。

紫陽花の掛け軸があるお部屋


【インタビュー先】
和食 味彩 阿部裕美さん
 (ご主人の阿部昌浩さんは不在でした)
電話番号:0192-47-4665
営業時間:11:30~13:30、17:00~21:00
定休日:火曜日、第3月曜日


店外の様子


<インタビューをして…>
岩手県立大学 1年 S.A.
 震災後、陸前高田を訪れるのは2回目。震災から1年半たった時に見た景色とは全く違っていた。今回、「味彩」を取材させていただいて、思ったことがある。人は前向きな思いと、強い意志があれば、どんなことでも乗り越えられるということだ。取材をして感じたことはをこれからも大切にしていきたいと思う。
 ぜひ、「味彩」に訪れ、和食を堪能してほしい。

インタビュー日時:2018年9月19日

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